「頭をぶつけたけど、意識もあるし歩けるから大丈夫だろう」——そう思っていませんか?
実は、意識がはっきりしていて自力で歩ける方でも、約10人に1人(5〜10%)に脳内出血や脳挫傷が隠れていることが、最新の医学研究で明らかになっています。これは高齢者だけの問題ではありません。若い方でも6〜8%に頭蓋内出血が見つかることが、5,600名以上を対象とした大規模研究で報告されています。
今回は、成人式の日に喧嘩の仲裁に入り、頭部を鈍器で殴られた19歳男性の症例をもとに、頭部外傷後に注意すべき症状と検査の重要性をお伝えします。
このブログでわかること
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- 意識がはっきりしていても約5〜10%に脳出血が隠れている可能性
- 若年者の交通事故やスポーツ外傷でも出血リスクは存在する
- 数時間〜数週間後に症状が悪化する「Talk and Deteriorate」現象
- CTでは検出できない脳損傷をMRIなら90%以上の精度で発見可能
- 頭痛、吐き気、記憶障害などがあれば専門医を受診すべき理由
1. 「軽症頭部外傷」でも脳出血は起こる
医学的に、意識がはっきりしていて会話もスムーズな状態は「軽症頭部外傷」と分類されます。しかし、この「軽症」という言葉が、深刻な脳損傷を見逃す落とし穴になることがあります。
軽症でも8.5%に頭蓋内出血
2020年に発表された大規模研究(Bonneyら)では、意識がはっきりしている軽症の受傷者5,634名を対象に調査が行われました。その結果、全体の8.5%に頭蓋内出血が認められました。出血の内訳は以下の通りです。
| 出血の種類 | 発生率 | 特徴 |
|---|---|---|
| 急性硬膜下血腫 | 4.7% | 脳の外側に血液が溜まる |
| 脳挫傷・脳内血腫 | 3.8% | 脳自体がダメージを受けて出血 |
| くも膜下出血 | 4.5% | 脳表面の隙間に出血が広がる |
つまり、「自分の足で歩いて病院に来られる方」の約10人に1人は、頭の中で出血を起こしている可能性があるのです。
年齢別の頭蓋内出血発生率
| 年齢層 | 出血発生率 | 注意点 |
|---|---|---|
| 小児(18歳未満) | 約5% | スポーツ外傷に注意 |
| 若年成人(18〜40歳) | 6〜8% | 交通事故・高エネルギー外傷 |
| 高齢者(60歳以上) | 10〜18% | 軽微な転倒でも要注意 |
2. 若い世代特有のリスク|交通事故とスポーツ外傷
「脳出血は高齢者の病気」というのは誤解です。若年者には、若年者特有の急激な悪化リスクが存在します。
交通事故による頭部外傷
若年者における頭部外傷の最大のリスク因子は交通事故です。タイの研究では、交通事故による頭部外傷は頭蓋内出血のリスクが約11倍に上昇することが報告されています。
バイク事故や自転車事故、自動車事故では、意識がはっきりしていても精密検査が推奨されます。
また、若年者では高齢者と比べて硬膜外血腫の頻度が高いことが特徴です。硬膜外血腫は動脈性の出血であり、急速に増大して生命を脅かす可能性があります。受傷直後は元気でも、数時間後に急激に意識が低下する「lucid interval(意識清明期)」という経過をたどることがあります。
スポーツによる頭部外傷
スポーツ中の頭部外傷も若年者に多い原因です。特に柔道は日本の学生における重症頭部外傷の最大原因として報告されています。
2003〜2010年の研究では、柔道による重症頭部外傷30例のうち50%が死亡、23%が遷延性意識障害となりました。ほとんどが架橋静脈断裂による急性硬膜下血腫で、平均年齢は16.5歳、約半数が初心者でした。
重要なのは、これらの症例の83%に意識清明期が認められたという点です。受傷直後は「大丈夫」と思っていても、その後急激に悪化する可能性があります。
セカンドインパクト症候群
若年者特有の危険な病態として「セカンドインパクト症候群」があります。これは、最初の脳振盪から完全に回復する前に2回目の頭部外傷を受けた際に発生する致死的な状態です。死亡率は約50%と極めて高く、主に13〜24歳の男性で報告されています。
スポーツ復帰の判断は慎重に行う必要があります。
3. CTで見逃される脳損傷|MRI検査の優位性
頭部外傷後の検査として、多くの救急医療機関ではまずCT検査が行われます。しかし、CTには限界があります。
CTとMRIの検出精度の違い
2013年のKimらの研究では、CTで正常と診断された軽症頭部外傷患者の10%に、MRIで出血や脳挫傷が発見されました。
さらに、2024年のAlmamooriらの研究では、以下の検出精度が報告されています。
| 検査方法 | 感度(検出精度) |
|---|---|
| CT | 約60% |
| MRI | 約92% |
CTで見逃されやすい脳損傷
特に以下の部位や病態の損傷は、CTでは検出が困難です。
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- 側頭葉底部の小さな出血
- 前頭葉先端の損傷
- 大脳鎌周囲の出血
- 基底核の微小出血
- びまん性軸索損傷(DAI):脳の神経線維が広範囲にダメージを受ける損傷
MRIのT2*強調画像や造影FLAIR画像を用いることで、これらの「隠れた脳損傷」を発見できる可能性が高まります。
4. 年齢を問わない頭蓋内出血のリスク因子
2024年のメタアナリシスから、年齢を問わず頭蓋内出血のリスクを高める因子が明らかになっています。
| リスク因子 | リスク上昇 | 詳細 |
|---|---|---|
| 頭蓋底骨折徴候 | 約12倍 | 耳や鼻からの出血、パンダ目(目の周りの内出血) |
| 意識消失 | 約2.6倍 | 一瞬でも意識を失った場合 |
| 外傷後の記憶障害 | 約2.1倍 | 受傷前後の記憶があいまいな場合 |
| 外傷後の嘔吐 | 約2倍 | 頭をぶつけた後に吐き気や嘔吐がある場合 |
| 抗血小板薬・抗凝固薬 | 約1.5倍 | バイアスピリン、クロピドグレル、ワーファリン、DOAC服用中 |
| 高齢者 | — | 脳萎縮により架橋静脈が脆弱化 |
| 高血圧・糖尿病 | — | 血管の脆弱化により出血リスク上昇 |
5. Talk and Deteriorate|話せていたのに悪化する現象
頭部外傷の怖さは、受傷直後は異常がなくても、数時間〜数日後に出血が出現することがある点です。
遅発性悪化のメカニズム
「Talk and Deteriorate(話していたのに悪化する)」と呼ばれる現象があります。Lobatoらの研究では、重症頭部外傷患者の25%が意識清明な状態から昏睡に陥ったと報告されています。このうち80%に手術を要する出血が見つかり、死亡率は32%でした。
年齢による悪化パターンの違い
興味深いことに、この経過は年齢によって異なります。
| 年齢層 | 主な出血タイプ | 特徴 |
|---|---|---|
| 20歳以下 | 硬膜外血腫(29%) | 急速な悪化 |
| 40歳以上 | 硬膜内病変(79%) | 遅発性の悪化 |
2020年のKugeらの報告でも、初診時のCT・MRIともに正常であったにもかかわらず、数日後に急性硬膜下血腫が出現した症例が紹介されています。
注意すべき時期
頭部外傷後の「Talk and Deteriorate」は、以下のタイミングで発生する可能性があります。
| 分類 | 発生時期 | 原因 |
|---|---|---|
| 急性 | 24時間以内 | 硬膜外血腫などによる急激な意識低下 |
| 亜急性 | 1〜5日後 | 脳浮腫や血流変動による悪化 |
| 遅発性 | 1〜3週間後 | 炎症や微細な出血の拡大 |
| 慢性期 | 3週間〜3ヶ月後 | 慢性硬膜下血腫による麻痺、頭痛、認知機能低下 |
最も危険なのは外傷後最初の24時間〜3日間であり、この間の厳重な経過観察が推奨されます。
6. 当院でMRI検査をお勧めする方
当院では、軽症頭部外傷であっても、必要に応じてMRI検査を実施しています。CTでは検出できない脳損傷の約10〜20%をMRIで発見できる可能性があります。
以下の症状・状況がある方は、年齢を問わずMRI検査をお勧めします
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- 頭蓋底骨折のサイン:耳・鼻からの出血、目の周りのアザ(パンダの目)
- 意識消失:一瞬でも気を失った
- 記憶障害:受傷前後の記憶があいまい
- 繰り返す嘔吐:頭をぶつけた後の吐き気・嘔吐
- 持続する頭痛・めまい:外傷後の頭痛やふらつきが続いている
- お薬の影響:血液をサラサラにする薬を服用している
- 交通事故・事件・スポーツ外傷:強い衝撃を受けた
MRI検査で異常が見つかった場合、その多くは小規模な出血や挫傷であり、経過観察で自然に吸収されることも少なくありません。しかし、中には手術や入院加療が必要となるケースもあります。早期発見・早期対応が、後遺症を防ぐ鍵となります。
症例:19歳男性の急性硬膜下血腫
今回ご紹介した19歳の男性は、成人式の日に喧嘩の仲裁に入った際に受傷されました。自らが招いた事故でもなく、突然受傷することは小児期や青年期には起こりえます。
頭皮は内出血のみで、明らかな外傷はありませんでした。1日経過して吐き気が続くため独歩で来院され、MRI検査で急性硬膜下血腫と脳挫傷が確認されました。そのため、当日に関連病院に搬送し、経過観察して頂いております。
このように、見た目では「大したことない」と思える頭部外傷でも、専門医の診察を受けた方がよい場合があります。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 頭を打った後、どのくらいの期間注意すべきですか?
A. 最も注意が必要なのは受傷後24時間〜3日間です。ただし、慢性硬膜下血腫は3週間〜3ヶ月後にも発症する可能性があるため、頭痛や認知機能の変化があれば受診をお勧めします。
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Q2. CTで異常なしと言われましたが、MRIも必要ですか?
A. CTの感度は約60%、MRIは約92%です。CTで正常でも約10%の方にMRIで脳損傷が見つかるという報告があります。意識消失や記憶障害、持続する症状がある場合はMRI検査をお勧めします。
Q3. 意識を失っていなければ大丈夫ですか?
A. いいえ。意識がはっきりしている軽症頭部外傷でも、約5〜10%に頭蓋内出血が見つかります。吐き気、頭痛、記憶障害などの症状があれば受診してください。
Q4. 高齢者と若年者で注意点は違いますか?
A. はい。高齢者は軽微な転倒でも急性期に出血を認める可能性があり、また、3週間から3ヶ月経過の後に徐々に頭に血が溜まってくる慢性硬膜下血腫のリスクがあります。若年者は交通事故やスポーツ外傷後の硬膜外血腫による急速な悪化に注意が必要です。
Q5. スポーツで頭を打った後、いつから練習に復帰できますか?
A. 症状が完全に消失してから段階的に復帰することが推奨されます。セカンドインパクト症候群(死亡率約50%)を防ぐため、スポーツでの頭部外傷が原因で意識を消失された場合は、専門医の診察を受けてスポーツに復帰が可能か診断して頂きましょう。
まとめ:「念のため」の受診が脳を守る
頭部外傷後、意識がはっきりしていて自分で歩けるからといって、脳に異常がないとは限りません。
最新の研究エビデンスによれば:
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- 軽症頭部外傷患者の約5〜10%にCTで異常が見つかる
- さらにMRI検査を行うと10〜20%で「隠れた脳損傷」が発見される
- 高齢者は軽微な転倒でも、若年者は交通事故やスポーツ外傷でも脳出血リスクがある
- 「意識を失った」「記憶があいまい」「吐き気がある」場合は年齢に関係なく精密検査が必要
「念のため」の受診が、あなたの大切な脳を守ります。
大阪市天王寺区にある当院では、最新のMRI機器を用いた精密検査と、専門医による診断を行っております。
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私たちは、大阪市天王寺区のあづま脳神経外科リハビリクリニックです。
この記事の監修医師 当院院長 我妻 敬一 (あづま けいいち)
医療法人 華拓昇会 あづま脳神経外科リハビリクリニック
〒543-0072 大阪市天王寺区生玉前町2-6
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- 専門医資格: 脳神経外科専門医/脳卒中専門医
- 所属学会: 日本脳神経外科学会、日本頭痛学会、日本脳卒中学会、日本認知症学会など
- 我妻院長の専門領域: 脳卒中、片頭痛、認知症、しびれ、ふらつき、坐骨神経痛
- 当院の特徴: 当日MRI検査、専門医診療、神経難病外来、脳卒中・神経難病リハビリ、栄養指導
© 2026 あづま脳神経外科リハビリクリニック. All Rights Reserved.
参考文献
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