さて、今日はバレンタインデー。今も昔も我妻(あづま)にとっては無縁な日😭ですが、最近は優しい患者さんから差し入れ程度に頂くこともあり、少しはチョコレートを食べることがあります。
今日も、何気にチョコを頂きながら、「片頭痛が僕には起きないなー」って思っていました。あづまにも、たまには片頭痛が起きます。でもチョコレートを食べて片頭痛が起きたことがないのです。
皆さんも外来で医師に、「チョコレートは避けた方が良いですよ!チョコレートには血管を拡張する物質が入っていて頭痛になる可能性がありますよ!」って言われたことはないでしょうか?
だって、一般社団法人 日本頭痛学会のホームページにも「また,多くの食品が片頭痛の誘発因子として信じられており、その代表的なものは赤ワイン,チョコレート,チーズである。」って書いてあるし・・・我妻もそのように説明していました。

そこで、本日はバレンタインデー。チョコレートで本当に片頭痛が起きるのか、2020年にNutrients誌に発表されたレビュー論文(Nowaczewskaら)から検証してみましょう。
このブログの結論
- チョコレートが片頭痛(偏頭痛)の誘因になる可能性はあるが、十分なエビデンスはない。
- 片頭痛の予兆として甘い物が欲しくなり、その時にチョコ好きな人はチョコレートを食べている可能性がある。
- だから、頭痛日誌をつけて、"自分の頭痛にはどんな誘因があるのか"を確認しましょう。
そもそも「片頭痛の誘因」とは?
この論文では片頭痛の誘因を、短期間に発作の確率を上げる"測定可能な内因・外因の曝露"と定義しています。
うーん、なんか難しいですね。
あづま的に翻訳すると、「片頭痛の誘因」とは、体の中の変化(内因)や生活・環境の影響(外因)のうち、「それが起きた直後〜半日〜1日くらいの間に、片頭痛発作が起こりやすくなるもの」で、できれば日誌などで「いつ・何があったか」を記録して確かめられる要素のことです。
一般的に、片頭痛(偏頭痛)で多い誘因は、ストレス、疲労、空腹、睡眠不足、天候などです。食品を誘因と感じる人は片頭痛患者の約20%で、チョコレートはその代表格として知られています。
なぜ「チョコ=誘因」と思われているのか?
片頭痛(偏頭痛)には予兆があり、発作前に食欲が変化して甘い物を食べたくなる人がいます。予兆には、他にも「なんとなく頭痛が起こりそうな予感や気分の変調、眠気、疲労感、集中力低下、頸部の凝りといった症状を経験する場合があります」(一般社団法人 日本頭痛学会ホームページ)。
なお、片頭痛には有名な前兆がありますが、予兆と前兆は違います。予兆は片頭痛が起きる数日前〜数時間前に起きる症状です。
前兆症状には、有名な閃輝暗点(見えない部分ができて、その周りにキラキラ・ギザギザの光が見える現象)や、チクチク感や感覚が鈍くなる感覚症状、言葉が出にくくなる言語症状、人によっては片麻痺が生じることもあります。
さて、話を戻しましょう。
片頭痛には予兆があって、チョコを食べたくなる人がいるのです。その人は、片頭痛になる前にチョコレートを食べて、「チョコを食べたら頭痛になった」と思ってしまいます。でもそうではなくて、頭痛の予兆でチョコが欲しくなって食べてしまい、その後に片頭痛が出現したという可能性があるのです。結果的には「チョコが原因で片頭痛が出た」格好になります。
実際、二重盲検試験の解釈でも「甘い物への欲求は予兆の一部」という指摘が出ています。
では、なぜチョコレートが片頭痛の誘因物質と考えられたのか?

チョコレートにはさまざまな生理活性物質が含まれています。
- フラバノール:一酸化窒素(NO)の産生を促進し、血管拡張を起こす可能性がある。ただし、近年の片頭痛研究では血管拡張の役割自体が疑問視されています。
- セロトニンとトリプトファン:チョコレートに含まれるこれらの物質がセロトニン濃度を上昇させ、片頭痛を誘発する可能性が理論的にはありますが、既存の研究では確認されていません。
- フェニルエチルアミン(PEA):脳血流や脳酸素消費量に影響を与え、片頭痛類似の血管イベントを引き起こす可能性が動物実験で示されています。
こう書くと「やっぱりチョコは悪いのか」と思われそうですが、実はそう単純ではありません。
科学的に検証すると?
1)自己申告研究(25研究):報告率は1.3〜33%と幅広い
この論文では、過去に報告された25の研究を整理し、チョコレートを片頭痛の誘因と報告した割合は1.3〜33%と大きなばらつきがあったと指摘しています。
そして多くの研究が「よくある誘因リスト」を見せて、患者さんに過去を思い出して回答させるという手法を用いています。つまり、これは「実際に誘因かどうか」ではなく、「誘因だと信じているかどうか」を測っている可能性があるのです。
非常に興味深いのは、Wöberらの研究(2006年)です。この研究では、「チョコレートが片頭痛の誘因になると聞いたことがある人」は61.7%もいたのに、「実際に自分で経験した人」はわずか14.3%でした。この差は統計的にも有意で、全誘因の中でチョコレートが最も「知識と実体験の乖離」が大きかったのです。
つまり、「チョコ=頭痛」という"常識"が先にあって、それが患者さんの認識にバイアスをかけている可能性があるわけです。
また、スマートフォンの電子日誌を使った前向き研究(Park, 2016年)では、チョコレートを誘因と報告した片頭痛患者はわずか1.5%未満でした。電子日誌はタイムスタンプが記録されるため、「いつ何を食べて、いつ頭痛が起きたか」の因果関係をより正確に追えます。思い出しバイアスが少ないこの方法で調べると、チョコレートの関与はかなり低いということになります。
ちなみに、日本とインドの調査では、チョコレートを誘因と報告した人はゼロでした。食文化や摂取量の違いが影響している可能性もありますね。
2)二重盲検試験(3研究):チョコ vs プラセボで有意差なし
「本当にチョコレートが片頭痛を起こすのか?」を科学的に検証するには、患者さんに「チョコレート」と「チョコレートに見せかけた偽物(プラセボ)」を食べてもらい、どちらで頭痛が起きるかを比較する二重盲検試験が必要です。
この論文では、過去に行われた3つの二重盲検試験をまとめています。
Moffettら(1974年):チョコレートが誘因だと自己申告した25人に対し、チョコレートとプラセボを比較。結果、有意差なし。
Marcusら(1997年):63人の頭痛患者にチョコレートまたはキャロブ(イナゴマメ:チョコレートの代替品)を食べてもらった結果、有意差なし。著者らは「チョコレートを食べたから頭痛が起きた」のではなく、「甘い物への欲求は片頭痛の前駆症状(予兆)の一部だろう」と結論づけています。
Gibbら(1991年):チョコレート後に41.7%が頭痛を発症し、プラセボ後はゼロという結果でしたが、被験者数がわずか20人と少なく、統計的有意差には至りませんでした。
3つの二重盲検試験すべてにおいて、チョコレートがプラセボと比較して有意に片頭痛を誘発するというエビデンスは得られませんでした。
むしろチョコレートは片頭痛に良い可能性も?

意外かもしれませんが、この論文ではチョコレートが片頭痛の「予防」に働く可能性についても言及しています。
マグネシウム:チョコレート(特にダークチョコレート)はマグネシウムの優れた供給源です(100gあたり最大252.2mg)。マグネシウムは片頭痛の予防に有効であるという強いエビデンスがあり、実際に予防的治療として使用されています。
リボフラビン(ビタミンB2):チョコレートに含まれるリボフラビンも、片頭痛の頻度を減らす効果が報告されています。
トリプトファン:セロトニンの前駆体であるトリプトファンの摂取量が多い人は、片頭痛の発症リスクが約54〜60%低下するという研究があります。チョコレートにはトリプトファンとセロトニンの両方が含まれています。
CGRP抑制:カカオを豊富に含む食事が、片頭痛の病態に重要な役割を果たすCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)の発現を抑制するという動物実験の結果があります。CGRPは現在、抗CGRP抗体(エムガルティ、アジョビ、アイモビーグ)やCGRP受容体拮抗薬の標的として片頭痛治療の主役となっている物質ですので、これは興味深い知見です。
気分の改善:片頭痛とうつ病はしばしば合併します。チョコレートには気分を改善する効果があり、これが間接的に片頭痛の経過に良い影響を与える可能性もあります。
「誘因を避ける」より「誘因とうまく付き合う」?
この論文で興味深いのは、「誘因を徹底的に避けましょう」という従来の指導に疑問を呈している点です。
片頭痛は中枢神経系の感覚信号への馴化(慣れ)の障害とも考えられています。そうだとすれば、誘因を避けるのではなく、むしろ脳を慣れさせる方向で対処した方がよいかもしれません。実際、誘因への短時間の曝露は感受性を高めますが、長時間の曝露は逆に感受性を低下させる(脱感作)という研究もあります。
Martinらは「片頭痛の誘因は避けるのではなくうまく付き合うべき」と提案しています。厳格な回避はストレスやフラストレーションを生み、かえって片頭痛を悪化させる可能性もあるからです。
この現象は、当院でも実感しています。「あれもダメ、これもダメ」と制限ばかりの生活は、それ自体がストレスになりますよね。
まとめ:バレンタインのチョコ、食べていいの?

この論文の結論は明確です。「チョコレートが片頭痛の誘因であるという十分なエビデンスはなく、医師は片頭痛患者に対してチョコレートを避けるよう一律に推奨すべきではない」としています。
あづまもこれまで「チョコレートは避けた方がいいですよ」と説明していましたが、今後は患者さんにこのエビデンスを踏まえてお伝えしようと思います。
ただし、もちろん個人差はあります。本当にチョコレートを食べた後に片頭痛が起きるという経験を繰り返している方もいるでしょう。大切なのは、「チョコ=悪」と決めつけるのではなく、頭痛日誌をつけて、自分自身の誘因パターンを把握することです。
頭痛日誌には、「何を食べたか」「睡眠時間」「ストレス」「天気」「生理周期」などを記録し、頭痛との関連を客観的に見ていくことが大切です。当院でも頭痛日誌の活用を推奨していますので、ぜひご相談ください。
というわけで、バレンタインのチョコレート、もらってもらって大変だったイケメン君で片頭痛持ちの方も、過度に恐れずに楽しんでいただいて良いのではないでしょうか。
もちろん、食べ過ぎはカロリーの問題がありますので、ほどほどに(笑)
本日もお読みいただきありがとうございました。
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参考文献
Nowaczewska M, Wiciński M, Kaźmierczak W, Kaźmierczak H. To Eat or Not to Eat: A Review of the Relationship between Chocolate and Migraines. Nutrients. 2020;12(3):608.
免責
本記事は一般的な医学情報の提供を目的としています。症状や治療は個人差があるため、心配な方は医療機関へご相談ください。
急に手があげられなくなった、ろれつが回らなくなった、顔が歪んでいるなどの症状があれば救急受診が必要です。
この記事の監修医師 当院院長 我妻 敬一(あづま けいいち)
医療法人 華拓昇会 あづま脳神経外科リハビリクリニック
〒543-0072 大阪市天王寺区生玉前町2-6
専門医資格: 脳神経外科専門医/脳卒中専門医
所属学会: 日本脳神経外科学会、日本頭痛学会、日本脳卒中学会、日本認知症学会など
我妻院長の専門領域: 脳卒中、片頭痛、認知症、しびれ、ふらつき、坐骨神経痛
当院の特徴: 当日MRI検査、専門医診療、神経難病外来、脳卒中・神経難病リハビリ、栄養指導





