あづま脳神経外科リハビリクリニックの院長、我妻 敬一(あづま けいいち)です。
2026年は、皆様に知っておいていただきたい医療情報や、日々の診療で経験する重要な症例をブログとして発信してまいります。
今回は、当院をご来院された31歳女性の症例を通じ、経口避妊薬(ピル)と脳卒中のリスクについて、専門医の視点から詳しくお話しさせていただきます。
この記事でわかること
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31歳女性の実例: ピル服用中に脳静脈洞血栓症(CVST)を発症したケース
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血栓症のリスク: CVST患者の約46%が経口避妊薬を使用(ISCVT研究)
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危険な組み合わせ: 「前兆のある片頭痛」+「ピル」で脳梗塞リスク6.1倍
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最新の選択肢: 血栓リスクを抑えた「POP(プロゲスチン単剤ピル)」とは
31歳女性を襲った「脳静脈洞血栓症(CVST)」の症例
31歳の女性が、これまでに経験したことのない激しい頭痛を主訴に当院を受診されました。即日MRI検査を実施したところ、残念ながら脳の血管が詰まり、血液が溢れ出す「くも膜下出血」を発症していることが判明しました。
くも膜下出血というと動脈瘤の破裂が一般的ですが、この方の原因は「脳静脈洞血栓症(Cerebral Venous Sinus Thrombosis:CVST)」という病態でした。詳細な問診の結果、患者様はエストロゲンを含有する経口避妊薬(ピル)を常用されていたことが分かりました。
当院より速やかに連携先の高度医療機関へ搬送し、入院加療を受けておられます。現在は、適切な治療介入により、回復を目指して懸命な治療が続けられています。
脳静脈洞血栓症(CVST)とは?若年女性に多い脳卒中
脳静脈洞血栓症(CVST)は、脳の静脈(血液を心臓に戻す血管)に血栓(血の塊)が詰まることで発症する脳卒中の一種です。
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発症頻度: 全脳卒中の0.5〜3%と比較的稀ですが、決して無視できない疾患です。
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最大の特徴: 若年層、特に女性に多いという点です。統計的には患者の約78%が50歳未満で、全体の約75%を女性が占めています。
血栓によって静脈が詰まると、脳からの血液の戻りが悪くなり(静脈還流障害)、脳圧が亢進して激しい頭痛や吐き気が出現します。重症化すると、今回の症例のように血管が破綻し、脳出血やくも膜下出血を引き起こすことがあります。
CVSTの症状(警告サイン)
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頭痛: 患者の約9割に認められます。「いつもの頭痛と違う」「薬が効かない」場合は要注意です。
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視覚異常: 物が二重に見える、見えにくいなど。
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吐き気・嘔吐: 脳圧が上がることによる症状です。
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痙攣(けいれん)や麻痺などの神経症状。
なぜ、ピルで血栓症リスクが上がるのですか?
CVSTのリスク因子として、最も注意が必要なのが「ピルの使用」です。国際的な研究(ISCVT)によれば、女性のCVST患者のうち約46%が経口避妊薬を使用していました。
従来の経口避妊薬には、女性ホルモンである「エストロゲン」が含まれています。エストロゲンには血液を固まりやすくする作用(凝固能の亢進)があるため、脚の静脈(深部静脈血栓症)だけでなく、脳の静脈に血栓ができるリスクも高めてしまいます。
当院でも年間数名のCVST患者様を診断し、連携病院と共に診療しております。早期に発見できれば、抗凝固療法(血液をサラサラにする治療)によって外来通院での治療が可能ですが、発見が遅れると命に関わる重篤な事態を招きかねません。
【重要】前兆のある片頭痛をお持ちの方へ
片頭痛をお持ちの方は、そのタイプに特に注意が必要です。
閃輝暗点(目がチカチカする)などの神経症状が先行する「前兆のある片頭痛」がある方は、それだけで脳梗塞リスクがそうでない方の2.16倍高いとされています。
さらに、以下のリスク上昇が報告されています(Sacco S, et al. 2012)。
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前兆のある片頭痛 + ピル服用:リスク6.1倍
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前兆のある片頭痛 + ピル + 喫煙:リスク7.0倍
このため、ガイドラインでも前兆のある片頭痛を持つ方へのエストロゲン含有ピル(COC)の処方は「禁忌(飲んではいけない)」とされています。
血栓リスクを抑えた最新の選択肢「POP」
ピルは月経困難症の治療などに非常に有用な薬剤です。現在、血栓リスクを懸念される方には、エストロゲンを含まない「POP(Progestin Only Pill:プロゲスチン単剤ピル)」という選択肢があります。
POPは血液凝固系への影響が極めて少なく、血栓症のリスクを上昇させないと考えられています。日本でも2025年6月に、初のミニピル「スリンダ®錠28」が発売され、より安全な選択が可能となりました。
【比較表】ピルの種類別リスク
| 項目 | COC(従来のピル) | POP(プロゲスチン単剤ピル) |
| 主な成分 | エストロゲン + プロゲスチン | プロゲスチンのみ |
| 主な製品例 | ルナベル、ヤーズ、トリキュラー等 | スリンダ(2025年発売) |
| 血栓症リスク | エストロゲンにより上昇の可能性あり | 極めて低い(上昇させない) |
| 前兆のある片頭痛 | 禁忌(服用できません) | 服用可能(慎重投与) |
| 当院の推奨 | 35歳未満・非喫煙者・頭痛なし | 40歳以上・喫煙者・片頭痛がある方 |
よくあるご質問(FAQ)
Q:ピル服用中にどのような症状があれば、脳神経外科を受診すべきですか?
A: 「今まで経験したことがない激しい頭痛」「数日間持続する頭痛」「市販の鎮痛薬が効かない」「吐き気・嘔吐」「目がかすむ」といった症状がある場合は、すぐに受診してください。当院では当日MRI検査が可能です。
Q:前兆のある片頭痛がありますが、ピルを飲み続けたい場合は?
A: エストロゲン含有ピル(COC)は脳梗塞リスクを大幅に高めるため、直ちに主治医と相談し、血栓リスクのないPOP(ミニピル)などへの切り替えを検討してください。
Q:ピルによる脳卒中は早期発見すれば治りますか?
A: はい。早期に発見し、抗凝固療法(血液をサラサラにする治療)を適切に行うことで、後遺症なく回復できるケースも多くあります。違和感を覚えたら「様子を見すぎない」ことが重要です。
まとめ:頭痛を我慢せず脳神経外科へ
30代という若さで脳卒中を発症することは、患者様ご本人にとってもご家族にとっても大きな衝撃となります。私たちは脳神経外科の専門医として、そのような悲劇を少しでも減らしたいと考えています。
現在ピルを内服中で、持続する頭痛や強い頭痛を感じている方は、早めに脳神経外科を受診してください。また、これから服用を検討されている方は、より血栓リスクの低いPOP(プロゲスチン単剤ピル)という選択肢があることを知っておいてください。
頭痛でお悩みの方、ピル内服中で不安がある方は、大阪市天王寺区のあづま脳神経外科リハビリクリニックまでお気軽にご相談ください。
引用文献
- Schürks, M., Rist, P. M., Bigal, M. E., Buring, J. E., Lipton, R. B., & Kurth, T. (2009). Migraine and cardiovascular disease: systematic review and meta-analysis. BMJ, 339, b3914. https://doi.org/10.1136/bmj.b3914
- Sacco, S., Ornello, R., Ripa, P., Tiseo, C., Degan, D., Pistoia, F., & Carolei, A. (2012). Migraine and the risk for stroke and cardiovascular disease. The Journal of Headache and Pain, 13(8), 595–606. https://doi.org/10.1007/s10194-012-0475-0
- Ferro, J. M., Canhão, P., Stam, J., Bousser, M.-G., & Barinagarrementeria, F. (2004). Prognosis of cerebral vein and dural sinus thrombosis: results of the International Study on Cerebral Vein and Dural Sinus Thrombosis (ISCVT). Stroke, 35(3), 664–670. https://doi.org/10.1161/01.STR.0000117571.76197.26
この記事の監修医師 我妻敬一(あづま脳神経外科リハビリクリニック院長)
医療法人 華拓昇会 あづま脳神経外科リハビリクリニック
〒543-0072 大阪市天王寺区生玉前町2-6
- 専門医資格: 脳神経外科専門医/脳卒中専門医
- 所属学会 : 日本脳神経外科学会、日本頭痛学会、日本脳卒中学会、日本認知症学会など
- 院長の専門: 脳卒中、片頭痛、認知症、しびれ、ふらつき、坐骨神経痛
- 当院の特徴: 当日MRI検査、専門医診療、神経難病外来、脳卒中・神経難病リハビリ、栄養指導
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