慢性硬膜下血腫の症状と原因、治療法を脳神経外科専門医の院長が解説!
先週は紹介患者さん6名を含む92名の初診患者さんを診療し、搬送者2名を含む17名の患者さんを病院や診療所に紹介いたしました。
今回は、前回お伝えした急性硬膜下血腫と脳挫傷を発症していた19歳の男性に続いて、頭部外傷時によく見られる慢性硬膜下血腫について詳しく解説いたします。
患者さんは58歳の男性で、1ヶ月前にバイクでの単独事故で受傷しています。頭部も打撲していましたが、ヘルメットをかぶっていたため意識消失もなく、主に四肢の外傷であったため、整形外科に通院していました。
ところが1週間前から、鎮痛剤を服用しても改善しない頭痛を自覚するようになりました。普段から頭痛を感じる方ではなかったため、整形外科の先生と相談され、当院に紹介されました。
診察すると、ご本人は全く自覚されていませんでしたが、右半身にわずかな麻痺を認めました。MRI検査を施行した結果、左慢性硬膜下血腫を認めました。すでに左側の脳が右に飛び出しており(正中偏位)、何らかの衝撃が加わると脳ヘルニアを起こして意識障害を起こしかねない状態でした。そのため、そのまま連携病院に搬送して手術を受けていただきました。
このブログからわかること
- 症状 :慢性硬膜下血腫の主な症状8つ
- 発症年齢:乳幼児(0〜2歳)と高齢者(60歳以上)に多いこと
- 注意点 :認知症や脳梗塞と間違われやすいため、頭部外傷後に何らかの症状があれば、疑って検査を受けておくことが大切な理由
- 病態 :「慢性炎症性疾患+微小血管病変」であること
- 治療方法:手術と予防薬について
1. 慢性硬膜下血腫の主な症状8つ
慢性硬膜下血腫(Chronic Subdural Hematoma, CSDH)は、高齢者に多くみられる疾患です。ご家族も気づかない程度の軽微な頭部外傷で発生する場合もあり、問診だけではかかりつけ医の先生であっても見逃してしまうことがしばしばあります。
症状は発症様式や血腫の大きさにより多様ですが、頭痛や歩行障害が多く、進行が緩徐(数週〜数か月)であるため、認知症やうつ病と誤診されていることも少なくありません。転倒を繰り返していたり、認知症症状が急に出現するなど、何らかの神経症状が見られる場合は、明らかな外傷の既往がなくても本疾患を疑って検査をしてみることが大切です。
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症状 |
発現頻度 |
臨床的特徴 |
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頭痛 |
約50〜80% |
最も一般的。鈍痛または圧迫感。脳が萎縮している高齢者では頭痛がないこともしばしば。 |
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片麻痺(運動麻痺)・歩行障害 |
約40〜60% |
脳卒中と異なり、緩徐に進む片麻痺のため、多くは自覚なし。転倒を繰り返すことで家族が気づくこともしばしば。 |
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意識障害・傾眠 |
約30〜40% |
徐々に傾眠傾向、混迷、昏睡まで進行することもあり危険な状態のサイン |
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認知機能障害 |
約30〜40% |
「物忘れ」や「認知症様症状」として発症することも |
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言語障害 |
約15〜25% |
左側頭部に血腫がある時に出現しやすい |
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精神症状 |
約15〜20% |
高齢者で「うつ」「物忘れ」と誤診されやすい |
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失禁 |
約10〜15% |
前頭葉圧迫による歩行障害と合併することが多い |
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けいれん発作 |
約5〜10% |
血腫膜の炎症・刺激が原因。術後にも発生しうる |
重要なポイントとして、約30%は非典型症状で発症し、認知変化・歩行障害・尿失禁のみの症例もあります。
頭痛と片麻痺が最も多いですが、高齢者では認知機能低下・傾眠・性格変化が初発となることも多く、診断の遅れは予後に影響することもあります。
2. 慢性硬膜下血腫の発生頻度
慢性硬膜下血腫は高齢者に多い後天性頭蓋内疾患であり、近年の高齢化に伴い発症率が世界的に急増しています。当院でも頭部外傷の注意書きをお渡しして注意喚起していますが、頭部外傷の急性期に行った検査で問題がなくても、後から慢性硬膜下血腫を発症することがありますので注意が必要です。
疫学データ
慢性硬膜下血腫の発症年齢には二峰性の分布が見られ、乳幼児(0〜2歳)と高齢者(60歳以上)に多発します。乳幼児では虐待による頭部外傷が原因となる場合があり、社会的にも注意が必要な疾患です。
全年齢での発症率は10万人あたり年間1〜20例ですが、65歳以上に限ると約58〜60例と急増します(日本の淡路島調査)。実際に発症者の約80%が65歳以上の高齢者です。性差については、男性が女性の2〜3倍多いことが知られています。
年齢別の発症傾向
若年者(40歳未満)では発症率は極めて低く(全体の5%未満)、原因の多くは外傷・てんかん・血液疾患(白血病など)です。
中高年(40〜60歳)では発症率が上昇し始め、慢性アルコール摂取・抗血小板薬・軽度外傷後に発症することが多くなります。
高齢者(60歳以上)が発症の中心層で最も高リスクです。脳萎縮による静脈架橋の脆弱化が主因であり、抗血小板薬・抗凝固薬服用率が高く、外傷が軽微でも出血しやすい特徴があります。
主な危険因子
⚫︎ 高齢者(60歳以上)・脳萎縮(最も重要)
⚫︎ 抗凝固薬/抗血小板薬使用
⚫︎ 頭部外傷(交通事故や転倒など)
⚫︎ アルコール多飲歴
⚫︎ 糖尿病・高血圧・脳卒中既往をお持ちの方
3. 経過観察できる症例と手術が必要な症例の鑑別
慢性硬膜下血腫の治療方針を決定する上で、手術が必要な症例と経過観察が可能な症例を見極めることが重要です。
手術が必要な症例
神経症状が出現している場合は、血腫の圧迫により脳が影響を受けていることを示します。以下の症状がある場合は手術が必要です。
⚫︎ 手足の麻痺 :片側の脱力や動かしにくさ
⚫︎ 認知症様症状:急激な物忘れ、判断力低下
⚫︎ 言語障害 :言葉が出にくい、理解できない
⚫︎ 歩行障害 :ふらつき、転びやすくなっている
⚫︎ 頭蓋内圧亢進:頭痛、吐き気・嘔吐、意識障害、傾眠傾向
経過観察が可能な症例
無症状で発見された場合は、以下の点を考慮して経過観察の可否を判断します。
⚫︎ 血腫の厚さ:血腫厚が20mm未満であること
⚫︎ 正中偏位の程度:脳の偏位が見られないか、ごく軽度であること
⚫︎ 患者さんの全身状態:手術リスクと経過観察のリスクを比較
経過観察が可能と判断した場合は、後述する内服薬(アトルバスタチン、五苓散など)で経過を見ています。
手術の標準治療
手術が必要な場合、標準治療は穿頭ドレナージ(burr hole drainage)です。頭蓋骨に小さな穴を開けて血腫を排出する手術で、再発率はおよそ10%程度と報告されています。
4. 病態生理とメカニズム
慢性硬膜下血腫の病態理解は近年大きく進歩しています。
従来は、硬膜とくも膜の間に生じた血腫から繰り返し出血が起こり、徐々に血腫が増大するという「再出血説」が主流でした。
しかし現在では、慢性硬膜下血腫は「慢性炎症性疾患+微小血管病変」として再定義されつつあります。血腫膜では炎症性サイトカインが産生され、異常な新生血管が形成されます。この新生血管は脆弱なため血漿成分が漏出し、血腫が徐々に増大していくと考えられています。
また最近の研究では、血腫液中から細菌が検出される症例があり、低グレード感染(subclinical infection)が慢性炎症を持続させ、再発の要因となる可能性も指摘されています。
この「慢性炎症性疾患」としての理解が、アトルバスタチンやデキサメタゾンといった抗炎症作用を持つ薬剤が有効である理論的根拠となっています。
慢性硬膜下血腫の発症のメカニズム
軽度頭部外傷(転倒、打撲など)
→架橋静脈の損傷(高齢者では脳萎縮により静脈が脆弱化)
→硬膜下腔への出血
→血腫膜の形成と炎症反応の開始
→異常血管新生と血管透過性亢進
→血腫の緩徐な増大(3週間〜3ヶ月かけて)
→脳圧迫による症状出現
5. 増悪予防薬・再発予防薬について
慢性硬膜下血腫の薬物療法は、近年急速に発展しています。炎症や血管新生の抑制を目的として、複数の薬剤が使用されています。
薬物療法の比較(2025年時点のエビデンス)
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薬剤 |
再発率低下効果 |
主な作用機序 |
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アトルバスタチン |
最強(再発率最大94%低下) |
抗炎症+血管内皮修復+VEGF抑制 |
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アトルバスタチン単独 |
有効(再発率40〜70%減少) |
抗炎症・血管内皮保護 |
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トラネキサム酸 |
有効(再発率約65%減少) |
抗線溶作用による再出血抑制 |
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五苓散 |
中等度効果(再発率約30%減少) |
水分代謝調整・抗炎症 |
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デキサメタゾン単独 |
効果ありだが副作用多い |
抗炎症・抗浮腫 |
当院での薬物療法方針
当院では、経過観察が可能な症例や術後の再発予防として、アトルバスタチンと五苓散を使用するようにしています。
デキサメタゾンなどは、手術をしても繰り返し再発する難治例などに主に用いられます。
アトルバスタチンは、スタチン系薬剤として知られる脂質異常症治療薬ですが、抗炎症作用と血管内皮保護作用により、血腫膜の炎症を抑制し、異常血管新生を抑える効果が期待されます。
五苓散は、漢方薬として水分代謝を調整する作用があり、血腫液の吸収を促進する効果が報告されています。副作用が少なく、高齢者にも使用しやすい利点があります。
トラネキサム酸は抗線溶作用により再出血を抑制する効果がありますが、血栓形成のリスクも伴います。当院ではサルコペニアやフレイルが見られる下肢筋力が低下した高齢者には使用を控えています。
よくあるご質問
Q1. 頭を打った後、どのくらいの期間注意すべきですか?
答え:慢性硬膜下血腫は受傷後3週間〜3ヶ月で発症することが多いです。特に60歳以上の方は、軽微な頭部打撲でも発症する可能性があるため、この期間に「いつもと違う頭痛」「物忘れ」「ふらつき」などの症状が出現した場合は、脳神経外科を受診してください。 ➡当院の頭部外傷の注意書きはこちらのブログへ
Q2. 慢性硬膜下血腫は治りますか?
答え:はい、適切な治療により治癒が期待できます。手術(穿頭ドレナージ)により血腫を除去すれば、多くの場合、症状は改善します。また、無症状で血腫が小さい場合は、薬物療法で自然吸収を促す場合があります。
Q3. 血液をサラサラにする薬を飲んでいますが、リスクは高いですか?
答え:はい、抗凝固薬(ワーファリン、DOAC)や抗血小板薬(バイアスピリン、クロピドグレル)を服用されている方は、慢性硬膜下血腫のリスクが約1.5倍高くなります。軽微な頭部打撲でも出血しやすいため、転倒予防が特に重要です。また、抗凝固療法を行っている方が頭を打った場合は症状がなくても受診することをお勧めします。
Q4. 認知症と慢性硬膜下血腫の見分け方はありますか?
答え:慢性硬膜下血腫による認知機能障害は、数週間〜数ヶ月という比較的短期間で進行する点が特徴です。アルツハイマー型認知症は年単位で緩徐に進行します。また、慢性硬膜下血腫では頭痛や片麻痺を伴うことが多く、治療により症状が改善する「治る認知症」の一つですので、急に物忘れがひどくなった場合は、MRIやCT検査をお勧めします。
まとめ:頭部外傷後の頭痛や頻回の転倒は危険信号
慢性硬膜下血腫は、軽微な頭部外傷から3週間〜3ヶ月後に発症する、高齢者に多い脳疾患です。
覚えておいていただきたいポイント:
⚫︎ 最も多い症状は頭痛・片麻痺・歩行障害
⚫︎ 高齢者では認知機能低下・傾眠・性格変化が初発となることも多い
⚫︎ 約30%は非典型症状で発症し、認知症や脳梗塞と誤診されやすい
⚫︎ 神経症状や頭蓋内圧亢進症状がある場合は手術が必要
⚫︎ 無症状で発見された場合は、アトルバスタチンや五苓散などで経過観察も可能
⚫︎ 「治る認知症」の代表であり、早期発見・早期治療が重要
「念のため」の受診が、あなたの大切な脳を守ります。
特に60歳以上の方で、頭部打撲後に「いつもと違う頭痛」「物忘れ」「ふらつき」などの症状が出現した場合は、お早めに脳神経外科をご受診ください。
今週は大陸から寒気が入り込んで、かなり冷え込むようです。気圧の影響もあり、片頭痛など神経の過敏性をお持ちの方は十分な対策をしてお過ごしください。
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この記事の監修医師 当院院長 我妻 敬一 (あづま けいいち)
医療法人 華拓昇会 あづま脳神経外科リハビリクリニック
〒543-0072 大阪市天王寺区生玉前町2-6
- 専門医資格: 脳神経外科専門医/脳卒中専門医
- 所属学会: 日本脳神経外科学会、日本頭痛学会、日本脳卒中学会、日本認知症学会など
- 我妻院長の専門領域: 脳卒中、片頭痛、認知症、しびれ、ふらつき、坐骨神経痛
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