拍動性耳鳴り:硬膜動静脈瘻の症状と治療を、脳神経外科・脳卒中専門医の院長が解説!
2026年も幕を開け、寒暖差の激しい日が続いております。脳神経外科は、気圧や温度変化による自律神経症状から、緊急を要する脳血管疾患まで、季節を問わず様々な病気を診療しております。
当院も新年最初の1週間を終えましたが、今週は紹介患者さん8名を含む107名の初診患者さんを迎え、2名の救急搬送を含めた5名の患者さんを病院へ紹介しました。基幹病院との密接な連携のもと、今年も「当日MRIで専門医が診断治療」を軸に、関西の皆さんのBrain Health Partnerとして精進してまいります。
さて本日は、今週受診された50歳男性の症例を通じて、「拍動性耳鳴り」の裏に隠れた重大な脳疾患、硬膜動静脈瘻(dAVF)について解説いたします。
このブログからわかること
● 「拍動性耳鳴り(ドクンドクン、ザーザーという音)」に隠れた重大な脳疾患:硬膜動静脈瘻(dAVF)の正体
● 拍動性耳鳴りを放置すると危ない理由。年間死亡率10.4%、脳出血率8.1%のリスク
● 「耳鼻科で異常なし」と言われた耳鳴りでも、脳神経外科のMRI検査で異常が見つかる理由
● 拍動性耳鳴り以外にも注意すべき「複視(物が二重に見える)」「頭痛」「急な物忘れ」などの危険サイン
1. 「自己流マッサージ」の危険:動静脈瘻
患者さんは、激しい頭痛と拍動性耳鳴りを主訴に来院されました。
以前から強い頭痛に苦しめられてきた彼は、頑固な肩こりや首の張りを解消するため、固い棒状のもので繰り返し後頭部や首の筋肉を自己流で強く圧迫しマッサージをしていました。
彼を襲った悲劇は、その「自己流の強いマッサージ」が原因でした。
MRI検査の結果、頭皮動静脈瘻を認めました。強い圧迫という物理的刺激(外傷性因子)が引き金となり、動脈と静脈が直接つながってしまう異常(瘻孔)が生じたと考えられます。その結果、血管の雑音が耳に響く「拍動性耳鳴り」が出現していました。また後頭部が大きく腫れており、私は血腫だと考えていましたが、動静脈瘻により拡張した静脈瘤でした。
頭皮動静脈瘻の原因は、Sofela et al.(2020)の242例の系統的レビューで、報告されています。
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分類 |
頻度 |
備考 |
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先天性・特発性 |
約60% |
生まれつきの血管異常 |
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外傷性(今回の症例) |
約32% |
発症まで6日〜31年(中央値3年) |
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医原性 |
約8% |
植毛術後など |
2. 拍動性耳鳴り:硬膜動静脈瘻の危険
この50歳男性の場合は、頭皮動静脈瘻であるので、命に影響することはまずありません。ところが、脳を守っている硬膜に動静脈瘻ができた場合は、「ただの耳鳴り」と放置するのは危険です。
硬膜動静脈瘻は、脳を包む硬膜の中で動脈と静脈洞が、何らかの原因により直接繋がってしまう後天性の血管病変で、全頭蓋内血管奇形の10〜15%を占めます。発症のピークは50〜60歳代です。
硬膜動静脈瘻は、進行して脳の静脈に血液が逆流する状態(皮質静脈逆流陽性)に至ると、van Dijkらの長期観察研究(Stroke 2002)により、以下のような高いリスクの状態にあると報告されています。
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リスク項目 |
年間発生率 |
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死亡率 |
10.4% |
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脳出血率 |
8.1% |
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神経症状 |
6.9% |
軽症の硬膜動静脈瘻では、拍動性耳鳴りしか症状がない方が、約13.6%おられます。この段階でMRI検査を受け、脳出血を発症する未病の段階で発見することができたなら、命に関わる脳出血を防ぐことが可能かもしれません。しかし、もし脳出血を発症してしまえば、何らかの後遺症が残る可能性があります。拍動性耳鳴を自覚されている人は、MRI検査を受けることをお勧めします。
3. 脳静脈洞血栓症との密接な関係性
実は、今年最初のブログ「ピルと脳卒中リスク:若年女性の静脈洞血栓症」で紹介した「脳静脈洞血栓症」と、今回お伝えしている「硬膜動静脈瘻」は、互いに原因となり得る双方向の密接な関係にあります。
脳静脈洞血栓症(CVST)が硬膜動静脈瘻(dAVF)の原因に
静脈洞が血栓で詰まることで静脈圧が上昇すると、脳血流が低下し組織が低酸素状態に陥ります。脳組織では脳血流を回復させようと、血管を作る因子(VEGF:血管内皮増殖因子)が放出され、結果的に余計な血管(瘻孔)が形成されてしまうことがあります。Amsterdam cohort(2007-2020年、178例)の解析では、dAVF患者の約31%にCVSTの合併または既往が認められています。
硬膜動静脈瘻(dAVF)が脳静脈洞血栓症(CVST)の原因に
硬膜動静脈瘻では、血圧の高い動脈血が直接的に静脈に流れ込むため、静脈の血管内皮が損傷を受け、血栓ができやすくなります。dAVF診断後のCVST発症率は79/1,000人年(約7.9%/年)と報告されています。
このように、脳静脈洞血栓症(CVST)と硬膜動静脈瘻(dAVF)は密接に関係しているため、いずれかを発症した患者さんの場合、「病気が治ったから大丈夫」と考えるのではなく、定期的なMRI検査による経過観察が大切だと思います。
4. 拍動性耳鳴りがあれば脳神経外科へ
以下の症状がある場合は、早期にMRI検査を受けることを強くお勧めします。早期であれば、脳出血を発症する前に治療が可能で、命の危険に晒されることもありません。
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拍動性耳鳴り
心臓の鼓動に合わせて「ザーザー」「ブンブン」と音がする症状です。横静脈洞・S状静脈洞の硬膜動静脈瘻では90%の患者さんがこの症状を訴えます。 -
複視・眼症状
物が二重に見える、目が赤く充血する、眼球がドクドクと拍動するなどの症状を自覚することがあります。これらの症状は、海綿静脈洞部の硬膜動静脈瘻(間接型内頚動脈海綿静脈洞瘻とも呼ばれます)で生じます。
海綿静脈洞部の硬膜動静脈瘻では、解剖学的に第6脳神経(外転神経)が障害されやすいため、目を外側に動かしにくくなり、物が二重に見えたり、両目でまっすぐに物を見ることが難しくなります。 -
難治性の頭痛
鎮痛薬が効かない頭痛や拍動性の頭痛を、初めて感じて続くようになった方は、注意が必要です。 -
認知機能の低下
急激に物忘れがひどくなった場合は、脳のうっ血(静脈性うっ血)が原因の可能性があります。硬膜動静脈瘻患者の50%で認知機能障害が検出されたとの報告もあり、治療により70%以上で改善が見込めます。
5. 硬膜(頭皮)動静脈瘻の診断と治療
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最初の診断:MRI/MRA検査の有効
MRIは、異常な血管の拡張や脳の浮腫を捉えられるため、極めて有効です。「耳鼻科で異常なし」と言われた拍動性耳鳴りが、MRI検査で脳の血管異常だと判明することがあります。確定診断には脳血管撮影(DSA)が必要ですので、当院のMRI検査で異常が疑われた場合は、連携病院へご紹介いたします。
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治療方法
現在は、身体への負担が少ない血管内治療(カテーテル治療)が第一選択となることが多く、完全閉塞率は約90%と良好な成績が報告されています。
⚫︎ 経静脈的塞栓術(TVE):静脈側からカテーテルを入れ、異常な通り道をコイルなどの塞栓物質で塞ぎます。
⚫︎ 経動脈的塞栓術(TAE):主にOnyxなどの液体塞栓物質を使用して流入血管の閉塞を図ります。
⚫︎ 複合治療(外科治療との組み合わせ):病変の部位や慢性腎臓病など造影剤の使用が困難な方ではカテーテル治療ができないため、外科的な手術を行うことがあります。症状や部位に応じて、外科手術とカテーテル治療を組み合わせた複合治療を行う場合もあります。
よくあるご質問
Q1. 拍動性耳鳴りはどんな音ですか?
心臓の拍動に合わせて「ドクドク」「ザーザー」と聞こえる耳鳴です。通常の耳鳴(「キーン」「ジー」という持続音)とは異なり、脈拍と一致するリズムがあります。
Q2. 耳鼻科で「異常なし」と言われましたが、脳神経外科を受診すべきですか?
拍動性耳鳴の場合は、脳神経外科でのMRI検査をお勧めします。硬膜動静脈瘻患者の約13.6%は拍動性耳鳴りのみで発症しており、早期発見のためにはMRI検査が不可欠です。
Q3. 硬膜動静脈瘻は治りますか?
はい、適切な治療により治癒が期待できます。血管内治療では完全閉塞率約90%が報告されています。認知機能障害などの神経症状も、治療により改善が見込める可逆性の病態です。
まとめ:拍動性耳鳴りにはMRI検査が推奨
良かれと思って行った「強いマッサージ」や「首への刺激」が、血管トラブルを招くことがあります。頑固な頭痛は、マッサージなどでは改善が図れません。肩こりや首こりは、あくまでも誘因(きっかけ)であって、神経の過敏性が原因です。まもなく、当院の片頭痛の解説ページを公開しますので、ご参照いただければ幸いです。
また、耳鳴りや物が二重に見える複視は脳からの重要なサインです。耳鼻咽喉科で耳が原因ではないと診断された耳鳴りの場合は、動静脈瘻や聴神経腫瘍などが原因かも知れません。複視は脳神経の異常が原因であり、脳梗塞や脳出血、脳動脈瘤(複視で見つかった動脈瘤は破裂リスクが高く、準緊急的に治療が必要です)、海綿静脈洞の硬膜動静脈瘻、重症筋無力症などの初発症状の可能性があります。
大阪市天王寺区にある当院では、最新のMRI機器を用いた精密検査と、専門医による診断を行っております。もし気になる耳鳴などの症状があれば、お近くの脳神経外科をご受診されてはいかがでしょうか。
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私たちは、大阪市天王寺区のあづま脳神経外科リハビリクリニックです。
参考文献
⚫︎ Sofela AA, et al. Scalp Arteriovenous Fistula: A Systematic Review. Neurosurgery 86:E98-E107, 2020
この記事の監修医師 当院院長
我妻 敬一 (あづま けいいち)
医療法人 華拓昇会 あづま脳神経外科リハビリクリニック
〒543-0072 大阪市天王寺区生玉前町2-6
● 専門医資格: 脳神経外科専門医/脳卒中専門医
● 所属学会: 日本脳神経外科学会、日本頭痛学会、日本脳卒中学会、日本認知症学会など
● 我妻院長の専門領域: 脳卒中、片頭痛、認知症、しびれ、ふらつき、坐骨神経痛
● 当院の特徴: 当日MRI検査、専門医診療、神経難病外来、脳卒中・神経難病リハビリ、栄養指導
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