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認知症予防の新たなヒント|がんと認知症の”逆相関”から見えてきた最新研究(2026年版)

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「親の介護」と「自分の健康」——40代・50代の今だからこそ知っておきたい、がんと認知症の不思議な関係


このブログのポイント

 

  • 「がんサバイバーはアルツハイマー型認知症を含む認知症になりにくい傾向がある」ことが研究で繰り返し報告されている
  • 2026年1月「Cell」に発表された研究で、その傾向を説明する有力なメカニズム候補が示された
  • 脳の「お掃除係」であるミクログリアが活性化し、認知症の原因物質を除去する仕組みが動物実験で確認された
  • ただし、まだ研究レベルの話。薬ができるまでの間、がんも認知症も予防できる生活習慣の改善に取り組みましょう!

がんサバイバーは認知症になりにくい傾向がある


がんと認知症は、なりたくない病気の代表格です。 でも、この2つの病気に奇妙な関係があるって知っていましたか?
今回は、いつもとテイストを変えて、最新研究を気軽に知っていただけるよう、できるだけ短くお伝えしようと思います。

さて、外来の診察室では、患者さんやご家族からこんなお話を聞くことがあります。
「お母さん、がんの手術から5年経ったけど、80歳を過ぎても頭はしっかりしてるのよね」
「大きな病気をしたことがないのに、70代で認知症が進んでしまって…」

実は、「がんサバイバーは認知症になりにくい傾向がある」という現象は、世界中の研究で何度も報告されています。
ただしこれは、追跡研究(コホート研究)という観察研究での報告です。

「がんサバイバーに認知症が少ない」ことは確かめられた事実ですが、「がんが認知症を防ぐ」という因果関係まで確定したわけではありません。

そんな中、2026年1月に一流科学誌「Cell」で発表された研究によって、「なぜそうした傾向が起こりうるのか」を説明する有力なメカニズム候補が示され、注目を集めています。


フラミンガム心臓研究で示された「逆相関」

がん既往がある人は、認知症が少ない傾向


有名な追跡研究「フラミンガム心臓研究」では、65歳以上の住民を長期に追跡し、がん既往がある人のほうがアルツハイマー型認知症の発症が少ない傾向が報告されました。また、逆方向(アルツハイマー型認知症の人は新たながんの発症が少ない)も認められ、「双方向の逆相関」として議論されています。

ここで大切なのは、「傾向」であって「確証」ではないということ。
がんになったから認知症にならないわけではありません。認知症の予防はしっかり行ってください。

👉 詳しくは前回のブログをご覧ください:認知症の45%は予防可能|脳神経外科専門医が伝える14のリスク因子と対策


メタ解析でも「弱い逆相関」を確認


2020年に「JAMA Network Open」に発表されたメタ解析(複数の研究を統合して分析する方法)でも、がんとアルツハイマー型認知症の間に弱い逆相関がみられると報告されています。

著者らは「生存バイアスなどの可能性は残るが、診断バイアスや競合リスクだけでは説明しにくい」とも述べています。
つまり、「長生きした人だけが調査対象になっているなどの偏りは完全には否定できないが、単なるデータの偏りだけでこの結果が出たとは考えにくい」ということです。

もっと端的に言うと、「がんサバイバーには認知症が少ない」ことは確からしいが、「がんが認知症を防ぐ」かどうかは、まだ研究途中で分からないという報告でした。


2026年1月、逆相関のメカニズムが具体化された

 

「がんを経験した人は認知症が少ない傾向がある」
この不思議な現象は知られていましたが、なぜそうなるのかは分かっていませんでした。

そんな中、2026年1月、中国・華中科技大学などの研究グループが「Cell」に注目の研究を発表しました。
この研究は、「なぜそうした傾向が起こりうるのか」という疑問に対して、動物実験・細胞実験でその仕組みの候補を示したものです。


脳の「お掃除係」が活性化する?

蛍光顕微鏡風の画像。赤いクモのような形のミクログリア細胞が、緑色のアミロイドβの塊を包み込み、除去している様子。背景には青い神経ネットワークが見える。

アルツハイマー型認知症の脳には、アミロイドβという異常なタンパク質が溜まっています。
これが「老人斑」と呼ばれるゴミのような塊(プラーク)を作り、脳の働きを妨げると考えられています。

脳にはミクログリアという細胞があります。これは脳の「お掃除係」で、本来はこうしたゴミを見つけて取り除く役割を持っています。
今回の研究で分かったのは、がん細胞が出すシスタチンCという物質が、このお掃除係の働きを活発にする可能性があるということです。

仕組みを簡単に言うと

  1. がん細胞が「シスタチンC」という物質を血液中に放出する
  2. シスタチンCが脳に届き、お掃除係であるミクログリアの「TREM2」というスイッチを押す
  3. スイッチが入ったミクログリアが、脳に溜まったゴミ(アミロイドプラーク)を積極的に片付ける

つまり、がんが出す物質が、結果的に脳のゴミ掃除を促進している可能性があるということです。


ただし、これは動物実験での話


この研究はマウスや細胞を使った実験(前臨床研究)で確認されたもので、人間で同じことが起きているかは、まだ分かっていません
「がんになれば認知症を防げる」という話ではありませんし、がんは当然予防すべき病気です。
この研究の価値は、将来「がんにならなくても、同じ仕組みで認知症を予防できる薬」を開発するヒントになりうることがわかったという点にあります。


既存の治療薬(レカネマブ)との違い


2023年12月、アルツハイマー型認知症に対してレカネマブという新しい薬が日本で承認されました。
レカネマブは、脳に溜まったゴミ(アミロイドβ)に直接くっついて、それを取り除く薬です。
いわば「ゴミを狙い撃ちにする掃除道具」のようなものです。

一方、今回の研究が示したのは、お掃除係(ミクログリア)そのものを元気にするという別のアプローチです。
ゴミを狙い撃ちにするのではなく、脳が本来持っている「掃除する力」を高める、という考え方です。

まだ治療法として確立したわけではありませんが、将来の薬開発にとって「別ルートの可能性」を示す研究として注目されています。


がんと認知症は「逆方向」の病気?


がんは「細胞が増えすぎる」病気で、
アルツハイマー型認知症は「神経細胞が傷んで減っていく」病気。です。
この「逆方向」という見方は、以前から議論されてきました。

実際、両方の病気に関わる分子(Pin1やGSK-3βなど)が研究されていますが、
それぞれの病気で「逆の方向に働いている」可能性が示唆されています。

ただし、「この分子ひとつで全部説明できる」という単純な話ではありません。
複数の仕組みが絡み合っていると考えるのが妥当です。


その他の興味深い研究

抗がん薬と認知症の関係

韓国の研究では、抗がん薬の種類によって認知症の発症が少ない群があるという報告があります。
ただし、これも観察研究であり、「抗がん薬=認知症予防薬」という話ではありません。
病態を理解するヒントとして価値がある、という位置づけです。

 

腸内細菌との関係

アルツハイマー型認知症のモデルマウスで、腸内細菌が大腸がんの発生に影響している可能性を示す研究もあります。
「腸と脳のつながり(腸脳相関)」は活発に研究されていますが、「この菌を増やせばOK」という単純な答えは、まだ出ていません。


ここだけは誤解しないでください

 

  • 「がんになれば認知症にならない」わけではありません
  • がんは予防できるなら予防しておくことが最優先です

今日からできること:がんも認知症も予防する7つの生活習慣


研究の進展を待つ間に、私たちが今日からできることがあります。
2024年のLancet Commission(認知症予防に関する国際委員会)では、認知症の約45%は修正可能なリスク因子に関連すると報告されています。
そして、これらの多くはがん予防にも共通しています。

 

今日から始められる7つの生活習慣

ガンも認知症も予防する7つの生活習慣のインフォグラフィック。1.適度な運動、2.食事の見直し(地中海食)、3.禁煙、4.飲酒は控えめに、5.良質な睡眠、6.生活習慣病の管理、7.人とのつながり・社会参加の各項目がイラストとテキストで解説されているフローチャート図

  • 適度な運動(週150分程度の有酸素運動+筋トレ)
  • 食事の見直し(野菜・魚・オリーブオイル中心=地中海食を参考に)
  • 禁煙
  • 飲酒は控えめに(可能なら減酒)
  • 良質な睡眠
  • 生活習慣病の管理(高血圧・糖尿病・脂質異常症)
  • 人とのつながり・社会参加


最新の薬や治療法を待つよりも、まずはこれらの生活習慣を整えることが、がんにも認知症にも効く「最強の予防策」です。

👉 詳しくはこちら:認知症の45%は予防可能|脳神経外科専門医が伝える14のリスク因子と対策


受診の目安


以下のような症状がある場合は、早めにご相談ください。

認知症が疑われる症状:

  • もの忘れが増えた、同じ話を繰り返す
  • 段取りが苦手になった、支払いミスが増えた
  • 性格が変わった、意欲低下が目立つ
  • 運転や火の管理が不安

まとめ

 

  • がんサバイバーは認知症が少ない「傾向」が、複数の研究で報告されている
  • 2026年の研究で、お掃除係(ミクログリア)を活性化する仕組みが動物実験で示された
  • ただし、まだ人での治療法として確立したわけではない
  • いま最も確実なのは、生活習慣の改善で、がんも認知症も同時に予防すること

よくある質問(FAQ)

 

Q1. がんサバイバーなら誰でも認知症になりにくいの?

 そうとは限りません。「平均として少ない傾向」が報告されているだけで、個人差が大きいです。がんを経験したからといって認知症にならないわけではありません。

Q2. 「逆相関」は因果関係が証明されたの?

 いいえ。観察研究で見つかった「関連」であり、「がんが認知症を防ぐ」という因果関係までは確定していません。

Q3. 2026年の研究で、認知症が治せるようになったの?

 まだです。動物実験・細胞実験で仕組みの候補が示された段階で、人での治療応用にはさらなる研究が必要です。

Q4. シスタチンCをサプリで摂ればいい?

 推奨できません。安全性や有効性が確立されておらず、自己判断でのサプリメント摂取は避けてください。

Q5. レカネマブはどんな薬?

 脳に溜まったゴミ(アミロイドβ)に直接くっついて除去する薬です。臨床試験で認知機能低下の抑制が示されていますが、適応や副作用については専門医への相談が必要です。

Q6. 抗がん剤で認知症を予防できる?

 認知症予防目的では使えません。抗がん剤には重大な副作用があり、がん治療以外の目的では使用できません。

Q7. 腸内細菌を変えれば認知症を防げる?

 現時点では分かりません。研究は進んでいますが、「この菌を増やせばOK」という単純な答えはまだ出ていません。

Q8. 家族にがん・認知症が多いと心配…

 遺伝要因はありますが、生活習慣の影響も大きいです。家族歴があっても、適切な予防策で発症リスクを下げることができます。

Q9. 脳ドックは受けた方がいい?

 不安がある方、脳卒中リスクが高い方は相談価値があります。目的を明確にして受けてください。

Q10. この研究、結局何がすごいの?

 「なぜがんサバイバーに認知症が少ないのか」という長年の謎に対して、具体的な仕組みの候補が初めて示されたことです。将来、がんにならずに認知症を予防できる薬の開発につながる可能性があります。


認知症が心配な方へ

 

「最近もの忘れが増えた」「親の認知症が心配」——そんなお悩みがあれば、お気軽にご相談ください。

当院では、MRIによる脳の画像診断と、認知機能検査を組み合わせた総合的な評価を行っています。
早期発見・早期対応が、認知症の進行を遅らせる鍵です。

ご予約・ご相談

あづま脳神経外科リハビリクリニックの「もの忘れ・認知症外来」を紹介するアイキャッチ画像。左側に白衣を着た我妻院長、右側にオレンジ色の看板が印象的なクリニックの外観が配置され、中央に「もの忘れ・認知症外来」の文字があります。

📋 物忘れ・認知症外来 認知症の早期発見から治療、ご家族へのサポートまで対応しています。
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参考文献

 


免責

 

本記事は一般的な医学情報の提供を目的としています。症状や治療は個人差があるため、心配な方は医療機関へご相談ください。

急に手があげられなくなった、ろれつが回らなくなった、顔が歪んでいるなどの症状があれば救急受診が必要です。


この記事の監修医師 当院院長 我妻 敬一(あづま けいいち)

 

医療法人 華拓昇会 あづま脳神経外科リハビリクリニック
〒543-0072 大阪市天王寺区生玉前町2-6

専門医資格: 脳神経外科専門医/脳卒中専門医

所属学会: 日本脳神経外科学会、日本頭痛学会、日本脳卒中学会、日本認知症学会など

我妻院長の専門領域: 脳卒中、片頭痛、認知症、しびれ、ふらつき、坐骨神経痛

当院の特徴: 当日MRI検査、専門医診療、神経難病外来、脳卒中・神経難病リハビリ、栄養指導


 

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